指定管理者制度AI|指定管理情報を見逃さない4つのプロダクトを展開中ログイン

講座の目次

伝わる提案の原理原則

6

やさしさが勝つ — 共感型プランニング

この記事の目次

この章を読み終わるとできること

  • 提案書の一文が「自社が何をするか」で止まっているか、「利用者に何が届くか」まで書けているかを判定できる

  • 自社の実績・体制・効率を主語にした文を、利用者の場面・便益・安心を主語にした文へ書き換えられる

  • やわらかい言葉と、利用者のために設計された提案を区別し、自分の原稿に足りない視点を指摘できる

やさしさは、選ばれるための設計である

行政も、地域も、そこで働く人たちも、施設を使う人も、関わるのはすべて人です。どれほど合理的で立派な計画でも、「この人たちに任せたい」と思ってもらえなければ採択には届きません。その判断の根にあるのが、やさしさです。

ただし、ここでいうやさしさは、語尾を丁寧にすることではありません。耳当たりのよい表現を足すことでもありません。

相手の視点で考え、配慮し、安心と納得を届ける力。

これが提案書におけるやさしさです。感情論ではありません。「誰のための施設か」を、施策の構造・視点・設計に通すことです。

提案書は、放っておくと自社の話で埋まります。

  • 豊富な運営実績がある

  • 十分な人員体制を整える

  • 効率化を図る

  • コストを削減する

  • 地域活性化に貢献する

どれも事業者にとっては重要です。ところが、これだけでは、利用者が施設で何を受け取るのかが見えません。実績も体制も効率も、事業者側の入力です。審査で確かめたいのは、その入力が公共施設を使う人の体験をどう変えるかです。

図の上段だけで文が終わると、自社紹介です。中央の問いを通り、利用者の場面と変化まで降りて初めて、実績や体制が「この施設で役立つ理由」に変わります。

なぜ自社の話ばかりになるのか

提案を書く側は、自社について多くを知っています。過去の実績、保有するノウハウ、社内体制、運営上の工夫は、すぐに言葉になります。一方、利用者が施設に来る前後の場面は、意識して想像しなければ文になりません。

そのため、書き始めの主語は自然に「当社」へ寄ります。

「運営体制を整えます」

「効率化を図ります」

「コスト削減を実現します」

これらの文は、実施する側から見れば簡潔です。しかし、受け取る側には三つの空白が残ります。

同じ内容を表で見る(コピー・検索用)

空白利用者が知りたいこと空白のまま起きること
誰の空白誰のための施策なのか利用者、スタッフ、行政、地域のどこに効くのか分からない
場面の空白いつ、どこで役立つのか日常の利用風景を想像できない
変化の空白何がどう良くなるのか実施項目は見えても、便益と安心が見えない

三つの空白のうち、一つでも残れば共感は弱くなります。「誰に」「どの場面で」「どんな変化が届くか」を埋めることが、主語の転換です。

自社の実績を削る必要はありません。実績は信頼の根拠です。問題は、実績で文を閉じることです。

弱い: 自社には○○の実績があります。

強い: ○○の実績を生かし、
      利用者が△△する場面で、□□できる状態をつくります。

実績から利用者まで橋を架ける。この一文があるだけで、実績の羅列は利用者への約束に変わります。

利用者を主語にすると、同じ施策の意味が変わる

「効率化を図ります」と「地元の皆さまにとって、もっと使いやすくなるよう工夫いたします」は、同じ方向の施策でも見え方が違います。前者が運営者の行為を述べているのに対し、後者は受け手に届く価値を示しています。

「コスト削減を実現」も同じです。削減そのものは利用者の利益ではありません。「無駄を省き、その分の予算をサービスの充実に回します」と書いて初めて、何のための削減かが見えます。

ここで大切なのは、単語の置き換えではありません。「当社」を「利用者」に変えただけでは、主語は転換できません。

下段で初めて、利用者が主語になっています。施策名の前に「利用者のために」を足すのではなく、施策の結果として利用者に起きる変化を文の中心に置きます。

便益は「便利になる」より一段深く書く

「便利になります」「安心できます」「満足度が向上します」。これらは利用者側の言葉に見えますが、まだ抽象的です。何を見て、何に迷わず、何を避けられるのか。生活の場面まで降りると、やさしさが見えるようになります。

利用者への配慮は、場面まで具体化すると伝わります。

  • 高齢者にも読みやすいフォントサイズとイラストを併用する案内表示

  • 段差の解消、手すり、スロープの設置

  • スタッフの温かい対応、明るく清潔な空間

これらは「利用者に配慮します」という宣言ではありません。施設に着き、案内を読み、移動し、スタッフと接する場面に分かれています。だから、自分が使う場面を想像できます。

やさしさは想像力です。想像力は、抽象語を増やすことではなく、相手が困る場面を一つずつ見つけることで働きます。

地域の生活が見えなければ、共感は生まれない

「地域活性化に貢献します」は、多くの提案に置ける言葉です。どこにでも置ける言葉は、その地域の暮らしを見ている証拠にはなりません。

これに対して、「地元高校生のアルバイト雇用20人を創出。さらに地元農家との連携で、直売コーナーを設けます」と書けば、働く高校生、品物を持ち込む農家、直売コーナーを訪れる人の姿が現れます。

ここで効いているのは、数字の多さだけではありません。地域の誰が、どこで、どう関わるかが見えることです。地域活性化という抽象語が、地域の生活風景に変わっています。

ただし、具体的に見せるために根拠のない人数や効果を置いてはいけません。具体性とは、数字を飾ることではなく、関係する人と場面を特定することです。裏付けられる数値があるなら数値を使い、無いなら場面と仕組みを明確にします。

やわらかい文と、やさしい提案は違う

「工夫いたします」「努めてまいります」と語尾を整えても、誰に何が届くかが空欄なら、提案の中身は変わりません。反対に、強い断定であっても、利用者の困りごとを捉え、負担を減らす設計が通っていれば、やさしい提案です。

同じ内容を表で見る(コピー・検索用)

判定言葉設計評価
Aやわらかい利用者の場面と変化があるやさしさが伝わる
Bやわらかい自社の行為だけ丁寧だが、共感の根拠がない
C簡潔で強い利用者の場面と変化があるやさしさが伝わる
D簡潔で強い自社の行為だけ自社都合に見える

見るべきは言葉の柔らかさではなく、設計の有無です。BをAに直すにも、DをCに直すにも、必要なのは利用者の場面と変化です。

四方向のやさしさを、一本の運営にする

利用者を主語にすることが、この章の中心です。ただし、公共施設の運営は利用者だけで成立しません。現場スタッフ、行政担当者、地域環境への配慮が崩れれば、利用者に届くサービスも続きません。

やさしさには四つの方向があります。

同じ内容を表で見る(コピー・検索用)

相手届けるもの提案で見える問い
利用者使いやすさ、安心感施設を使う場面で、何に迷い、何に困るか
スタッフ働き続けられる環境安心して働ける条件が、サービスをどう支えるか
行政担当者運営を任せられる安心トラブル時と平常時に、何が共有されるか
地域環境将来への責任環境への負担を、生活に分かる形でどう減らすか

この四方向は、善意の足し算ではありません。互いにつながっています。

図は、四方向を別々の美辞麗句として置かないためのものです。スタッフへの配慮と行政への安心は、利用者に届くサービスを支える条件としてつながります。

スタッフへのやさしさは、サービスの土台になる

スタッフへの配慮には、月1回以上の連休取得制度、年3万円までの研修費補助、休憩スペースの充実と風通しの良い職場文化といった例があります。

ここでも「運営体制を整えます」では届きません。「安心して働ける環境づくりに投資し、職員の定着率とモチベーション向上を図ります」と書けば、体制整備の先にある働く人の状態が見えます。

さらに利用者へつなぐなら、問うべきことは一つです。

働く人への配慮が、利用者に届くサービスの安定とどう結びつくのか。

ここが切れていると、福利厚生の紹介で終わります。つながっていれば、人を大切にする運営がサービス品質を支えるという一本の設計になります。

行政へのやさしさは、心労を減らすこと

行政担当者が見ているのは、「安心できるパートナーかどうか」です。

  • 明確なKPIと、実現可能な範囲の数値目標

  • トラブル時の対応フローとリスクへの備え

  • 情報共有や報告体制の丁寧な設計

「適切に運営します」では、何が起きても安心だとは判断できません。「事故発生時は市担当部署に直ちに連絡し、1時間以内に初期対応完了の体制を整備します」と書けば、事故時の動きと時間が見えます。

行政担当者の心労を減らすことも、指定管理の重要な仕事です。ここにも主語の転換があります。自社の危機管理体制を誇るのではなく、担当者がいつ何を知り、何を判断できるようになるかまで示します。

環境へのやさしさは、生活の言葉で伝える

環境配慮は流行ではなく責任です。ただし、「カーボンニュートラルに貢献」と書くだけでは、施設運営がどう変わるのか見えません。

環境への配慮も、数字と実生活に接続して初めて納得に変わります。難しい用語を並べるのではなく、何を変え、その結果が施設の運営や地域の生活にどう現れるかを示します。

この四方向を扱う理由は、提案の範囲を広げるためではありません。利用者を主語にした提案を持続させる条件を見落とさないためです。主役は一人ではない。けれど、四方向すべてを貫く問いは同じです。

その施策は、誰のどんな負担を減らし、どんな安心を届けるのか。

自社目線の文を見抜く五つの型

自社目線は、「当社」という語がある文だけではありません。主語が省略されていても、実施内容だけで閉じていれば自社目線です。逆に「利用者」という語がなくても、利用場面と便益が中心なら利用者目線です。

次の五つの型で、自分の文がどこで止まっているかを見分けます。

同じ内容を表で見る(コピー・検索用)

自社目線で止まる文転換するときの問い利用者目線の着地点
1. 実績→意味実績・受賞・件数を並べるその経験が、この施設の誰に何をもたらすか実績を利用者への便益に接続する
2. 行為→変化導入・実施・整備を宣言する実施後、利用者の行動や状態はどう変わるか施策後の利用場面を書く
3. 効率→還元効率化・削減で閉じる生まれた余力を誰にどう戻すかサービスへの還元先を書く
4. 体制→安心人員・研修・連絡網を示す利用者や行政は、何に迷わず何を任せられるか安心が生まれる場面を書く
5. 抽象→生活地域貢献・環境配慮を掲げる地域の誰が、どこで、どう関わるか人・場所・関わり方を書く

五つは文章技法の一覧ではなく、施策の意味を確かめる問いです。答えが出ないときは、表現が悪いのではありません。施策そのものに「誰のためか」がまだ設計されていません。

型1 実績の羅列を、利用者にとっての意味へ

実績は、提案者にとって書きやすく、安心できる材料です。しかし、実績の数や規模を並べただけでは、別の施設での過去です。

元の文:
  豊富な施設運営実績を有しています。

転換の問い:
  その経験によって、利用者のどんな困りごとに先回りできるか。

書き換えの骨格:
  施設運営で得た知見を生かし、利用者が[場面]で
  [困りごと]を抱えず、[便益]を得られる運営にします。

「豊富な」を別の形容詞に変えても意味は増えません。過去の経験が、目の前の利用者にどう届くかを足します。

型2 実施することを、利用者に起きる変化へ

提案書には「導入します」「実施します」「整備します」が増えます。これらは約束として必要ですが、行為の完了しか示しません。

元の文:
  案内表示を改善します。

転換の問い:
  誰が、どの場所で、何に迷わなくなるのか。

書き換えの骨格:
  [利用者]が[場面]で迷わず[行動]できるよう、
  [施策]を行います。

案内表示の例なら、高齢者にも読みやすいフォントサイズとイラストの併用まで降りることで、利用場面が見えます。

型3 効率化と削減を、サービスへの還元へ

効率化やコスト削減は、運営上の手段です。利用者にとっての価値は、その先にあります。

元の文:
  コスト削減を実現します。

転換の問い:
  省いた無駄を、どのサービスへ戻すのか。

直した文:
  無駄を省き、その分の予算をサービスの充実に回します。

還元先が書けないなら、削減は自社都合のままです。「安く運営できる会社」から、「限られた資源を利用者へ戻す運営」へ意味を変えます。

型4 体制の説明を、相手の安心へ

人員、研修、連絡網、対応フローは、それ自体が目的ではありません。利用者が安心して使え、行政担当者が安心して任せられる状態を支えるものです。

元の文:
  運営体制を整えます。

転換の問い:
  平常時とトラブル時に、誰が何を不安に思わずに済むか。

書き換えの骨格:
  [相手]が[場面]で[不安・迷い]を抱えないよう、
  [体制]により[対応]できる状態を整えます。

「充実した体制」「万全の体制」という形容ではなく、安心が生まれる場面を示します。

型5 抽象的な貢献を、地域の生活へ

地域貢献や環境配慮は、大きな言葉ほど生活から離れます。

元の文:
  地域活性化に貢献します。

転換の問い:
  地域の誰が、施設のどこで、どのように関わるか。

書き換えの骨格:
  [地域の人]が[場所・機会]で[関わり方]を持てるよう、
  [施策]を行います。

「地域」という大きな主語を、高校生、農家、施設を訪れる人といった具体的な人へ分ける。そこで初めて、地域のリアルと生活感が立ち上がります。

悪い例を直すとき、何を変えるのか

書き換えは、美文にする作業ではありません。主語、場面、変化の三点を動かします。五つの対比で、その違いを分解します。

比較1 効率化

段階判定
悪い例効率化を図ります行為だけ。誰の何が良くなるか不明
表面だけの修正利用者のために効率化を図ります「利用者」を足しただけ。場面と変化が不明
直した例地元の皆さまにとって、もっと使いやすくなるよう工夫いたします受け手と便益が文の中心にある

「利用者のために」を足すだけの中間案が、最も見落としやすい失敗です。利用者という語の有無ではなく、利用者に起きる変化で判定します。

比較2 コスト削減

段階判定
悪い例コスト削減を実現削減が目的化している
表面だけの修正利用者に配慮してコストを削減します配慮の中身がない
直した例無駄を省き、その分の予算をサービスの充実に回します削減分の還元先が見える

効率や削減は否定しません。**誰に返すかを書かなければ、経営上の都合にしか見えない。**ここが勝負の分かれ目です。

比較3 地域活性化

段階判定
悪い例地域活性化に貢献しますどの地域にも置ける抽象語
表面だけの修正地域の皆さまと共に活性化を進めます関わる人・場所・行動が不明
直した例地元高校生のアルバイト雇用20人を創出。さらに地元農家との連携で、直売コーナーを設けます人・関わり方・場所が見える

この例は、数字を真似るためのものではありません。生活風景まで具体化する粒度を見る例です。自案件では、裏付けられる人・場所・関わり方に置き換えます。

比較4 運営体制

段階判定
悪い例運営体制を整えます体制の中身も、届く安心も不明
表面だけの修正働きやすい運営体制を整えます状態は見えるが、投資と結果の線が弱い
直した例安心して働ける環境づくりに投資し、職員の定着率とモチベーション向上を図りますスタッフに届く価値と狙いが見える

体制は人数の説明だけではありません。働く人がどんな状態になるかを示すと、サービスを支える土台として読めます。

比較5 行政への安心

段階判定
悪い例適切に運営します何をもって適切か判断できない
表面だけの修正行政に安心いただけるよう適切に運営します安心の根拠がない
直した例事故発生時は市担当部署に直ちに連絡し、1時間以内に初期対応完了の体制を整備します場面、連絡先、時間、到達状態が見える

安心は「安心」という語から生まれません。何が起きたときに、誰が、いつまでに、どこまで動くかが見えて生まれます。

共感があるかを判定する四つの基準

利用者目線に書き換えたつもりでも、抽象語が増えただけということがあります。完成した一文は、次の四基準で判定します。

同じ内容を表で見る(コピー・検索用)

基準○になる条件×になる状態
1. 相手便益を受ける人が特定できる「地域」「皆さま」だけで具体像がない
2. 場面施設利用のどこで効くかが見える施策名だけで、使う場面がない
3. 変化困りごと、負担、安心の何が変わるか分かる「向上」「充実」「貢献」で閉じる
4. 接続自社の実績・体制・施策が、その変化につながっている便益だけを掲げ、実現手段がない

四つすべてが○なら、主語は転換できています。一つでも×なら、言葉を磨く前に設計へ戻ります。

とくに見落としやすいのが4番です。利用者の気持ちだけを書き、施策との接続がなければ、今度は感情論に傾きます。やさしさは、相手への想像と実現手段の両方があって初めて強さになります。

読み取り方は、左側の約束と右側の手段がつながっているかです。約束だけでも手段だけでも足りません。

共感は、審査員に媚びることではない

共感を得ようとして、想定する審査員の好みに言葉を寄せる必要はありません。見るべき相手は、施設に関わる人です。利用者の不便、スタッフの働き方、行政担当者の不安、地域環境への責任を、施策として引き受ける。その設計が「任せたい」という信頼につながります。

「この人たち、本当に地域のことを考えてくれているな」

「この人たちに任せれば安心」

「ここで働きたい、長く続けたい」

こうした感覚は、感動的な言葉で作るものではありません。誰の何を考えたかが、具体的な施策として読めるときに生まれます。

共感とロジックは対立しない

共感型の提案は、論理を弱めるものではありません。第3章で扱う課題・施策・効果のつながりに、「誰の課題か」という主語を通すものです。

この順が通れば、共感は感情論から離れます。課題と効果のあいだに人の生活が見えるため、ロジックも具体的になります。

理念、収支、人員配置など章ごとの実装は C3 が担当します。ここでは、どの記述にも通す上流の問い——「誰のために、何が変わるのか」——までに留めます。

3行まとめ

  1. やさしさは語尾の柔らかさではありません。誰のための施設かを、施策の構造・視点・設計に通すことです。

  2. 自社の実績・行為・効率・体制は、利用者の場面と変化までつないで初めて「この施設で役立つ理由」になります。

  3. 主語の転換は、相手・場面・変化・接続の四基準がすべて○になるまで、自分の原稿の上で行います。

提案書の一文を一つだけ選び、「だから、誰がどう助かるのか」と問い直してください。その答えが紙面に現れたとき、やさしさは飾りではなく、事業の強さになります。

本章の数値を含む対比例は、主語転換の粒度を示すものです。自案件への転用時は、確認できる根拠と自社の計画に合わせて置き換えてください。

この章の学習を終えたら