ロジック!ロジック!ロジック!①「因果の強さで評価は決まる」は少し言い切りすぎなので、「提案の説得力を左右する」くらいに。
この記事の目次
この章を読み終わるとできること
自分が書いた提案を一施策ずつ「課題→施策→効果」に分け、三つが一本の因果でつながっているか判定できる
課題がない、効果がない、根拠がない、対応がずれているという穴を見つけ、修正すべき箇所を指差せる
募集要項の該当箇所と根拠をたどり、施策が課題に対応しているかを第三者が追試できる形で示せる
施策の数ではなく、因果の強さで評価は決まる
提案書が弱くなる最大の原因は、アイデア不足ではありません。施策だけが並び、その施策がどの課題に答え、実施によって何が良くなるのかがつながっていないことです。
イベントを増やす。SNSを活用する。地域団体と連携する。接遇研修を行う。どれも単独では悪い施策ではありません。しかし、なぜその施設で必要なのかが書かれていなければ、別の施設にも貼れる一般論に見えます。何が良くなるのかが書かれていなければ、実施すること自体が目的に見えます。
指定管理事業計画書は、論理の階段をつくる作業です。上の段と下の段がつながっていなければ、どれほど立派な言葉を置いても読み手は途中で足を踏み外します。
上の図で見るべきなのは、箱の豪華さではなく矢印です。課題・施策・効果の三つがあっても、矢印を言葉で説明できなければ因果は完成していません。
行政は忙しい。読み手が短時間で構造をつかめなければ、すばらしい取り組みでも評価につながりません。それだけではありません。読み手と書き手の認識がずれる表現は、運営開始後の火種になります。
「提案書にはこう書いてましたよね?」
この一言を受けて青ざめる。そんな事態は、表現を曖昧にしたときだけ起こるのではありません。課題と効果の関係を曖昧にしたときにも起こります。マイナスに勘違いされれば評価が下がる。プラスに勘違いされれば、できると受け取られた約束が運営開始後に残る。どちらも最悪です。
だから、ロジックは見栄えのために整えるのではありません。提案の意図を正確に伝え、実施後の約束まで一致させるために整えます。
「具体的である」と「論理的である」は違う
施策名、実施回数、対象、担当者、時期まで具体的に書けば、提案は強く見えます。けれども具体性だけでは、論理は保証されません。
たとえば、「学生向け演劇ワークショップを実施する」という施策は具体的です。文化施設で、若年層の来館が伸びていないという課題に対して置かれ、若年層が来館動機を持つという変化につながるなら、因果が通ります。一方、課題が高齢利用者への情報提供不足なのに、同じ施策を置けば対応がずれます。施策の具体性は同じでも、ロジックの強さはまるで違います。
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| 見るもの | 問い | 答えられないと何が起きるか |
|---|---|---|
| 課題 | なぜ、この施策が必要なのか | 思いつき、流行、他施設の模倣に見える |
| 施策 | 課題の何を、どう変えるのか | 課題と手段の対応が読めない |
| 効果 | 実施すると、誰の何が良くなるのか | やりっぱなしに見える |
| 根拠 | 課題認識と効果の見込みを何で支えるのか | 書き手の期待だけに見える |
「良さそうな施策か」ではなく、四つの問いに答えられるかで見ます。魅力的なアイデアほど、この検算を飛ばしやすい。施策に惚れた瞬間が、いちばん危ないところです。
論理の階段は、上から下まで一本でつなぐ
提案全体には大きな階段があります。
理念
運営方針
施設のテーマ・要求水準・課題
各課題への取り組み姿勢
具体的な取り組みと効果
取り組みの具体化・補足
理念は、何者としてどんな価値を提供するかを示します。運営方針は、その価値を実現する全体戦略です。そこから施設の課題へ降り、課題への姿勢、具体策、効果、補足へつなぎます。上段から下段へスムーズにつながることが命です。
文化施設を例にすると、次のような階段になります。
| 段 | 内容 |
|---|---|
| 理念 | 地域文化の継承と創造 |
| 運営方針 | 地域住民参加型プログラムを軸にする |
| 課題 | 若年層来館率の低迷 |
| 取り組み姿勢 | 若年層が来館動機を持つ企画を実施する |
| 具体策 | 学生向け演劇ワークショップ |
| 補足 | 指導講師の確保方法、集客目標数値 |
この例の価値は、文化施設向けの正解を示すことではありません。上の言葉が下の判断を縛り、下の施策が上の方針を具体化している点にあります。「地域住民参加型」を掲げたあとに、住民が参加しない施策だけが並べば階段は切れます。「若年層来館率の低迷」を課題に置いたあとに、誰を対象とするか不明な企画を置いても切れます。
章ごとの書式や、理念・収支・人員配置をどう実装するかは C3 が扱います。ここでは、どの部分を書くときにも共通する上段の理由が下段の選択を決めているかという原則だけを握ってください。
組織の役割も、同じ階段で降ろす
もう一つの切り口は、役割の階層です。
大項目は、会社・経営としての意思と哲学
中項目は、マネジメント部門や本社担当による支援・管理
小項目は、現場スタッフの日々の行動
会社が掲げる方針だけで終われば、現場で何が起こるか分かりません。現場の細かな行動だけが並べば、なぜ会社としてそれを選ぶのか分かりません。経営、本社、現場が一本につながったとき、「現場レベルまで落とし込めている」という説得力が生まれます。
上から下へは「具体化」の矢印、下から上へは「その行動が方針に沿うか」という検算の矢印です。片方向に読むだけでなく、最下段から逆向きにもたどれる提案が強い提案です。
大きな階段と、一施策の因果を混ぜない
提案全体の階段と、一施策の「課題→施策→効果」は大きさが違います。ここを混ぜると点検できません。
| 粒度 | 役割 | 点検するときの問い |
|---|---|---|
| 提案全体 | 理念から現場行動まで、全体の方向をそろえる | 下段の選択は上段の方針を具体化しているか |
| テーマ | 一つの施設課題に対する施策群をまとめる | 同じ課題に向いた施策だけが集まっているか |
| 一施策 | 課題・施策・効果を一本で結ぶ | 三つの箱と根拠を一行で言えるか |
点検シートは一施策を一行にします。理念から全施策までを一行へ押し込めると抽象語だらけになり、穴が見えません。反対に、一つの施策を作業手順まで細分化すると、何のための施策かが見えなくなります。一行の単位は、ひとつの効果を約束する施策です。
因果の穴は五つの型で見つける
文章を眺めて「ロジカルか」と考えても、判定は感覚論になります。穴には型があります。型の名前を付ければ、どこを直すべきかが見えます。
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| 穴の型 | 見え方 | 判定の問い | 修正の方向 |
|---|---|---|---|
| 課題なし | 施策から始まり、必要性が書かれていない | この施策が無いと、誰が何に困るのか | 募集要項の該当箇所と施設課題を置く |
| 効果なし | 「実施する」で文が終わる | 実施後に、誰の何がどう変わるのか | 施策の先に起こす変化を書く |
| 根拠なし | 課題や効果が期待・印象だけで置かれる | その判断を第三者が追える資料は何か | 資料名・該当箇所をひも付ける |
| 対応ずれ | 課題と施策が別の方向を向く | この施策は課題の原因・状態に直接働くか | 施策を替えるか、対応する課題へ結び直す |
| 飛躍 | 施策から大きな効果へ途中を飛ばす | 施策の直後に起きる変化を一段ずつ言えるか | 中間変化を補い、約束を適切な大きさにする |
穴が複数ある行もあります。その場合は、いちばん左側の穴から直します。課題が無いまま効果だけ足しても、施策の必要性は戻りません。課題と施策の対応がずれたまま根拠を増やしても、ずれを強く説明するだけです。
穴1:課題がない
「SNSで情報発信を強化する」
これだけでは、なぜSNSなのか分かりません。情報が届いていないのか、届いているが来館動機になっていないのか、対象層がSNSを使うからなのか。課題が無い文章では、どの問いにも答えられません。
施策から書き始める癖は強いものです。会議ではアイデアが成果として見えやすく、提案書でも施策名は見栄えがします。しかし、課題を置かずに施策を増やすと、数は増えても評価の理由が増えません。
穴2:効果がない
「接遇研修を実施する」「地域団体と連携する」「定期的に会議を開く」。この三つには共通点があります。すべて、行為を実施したところで文章が終わっています。
研修の実施は効果ではありません。連携の締結も効果ではありません。会議の開催も効果ではありません。それらは手段です。やった結果、誰の何が良くなるのかまで降りなければ、提案は完結しません。
穴3:根拠がない
課題と効果がつながって見えても、課題認識がどこから来たか分からなければ、書き手の思い込みと区別できません。「若年層の利用が少ない」「情報発信が不足している」「地域連携が求められている」。これらの断定を、自案件のどの資料から読んだのかが必要です。
根拠は飾りではありません。読み手が同じ資料へ戻り、同じ判断をたどれるようにする道標です。点検シートには、募集要項の該当箇所を必ず書きます。別の公開資料を使うなら、その資料名と該当箇所を残します。
穴4:対応がずれている
もっとも見落としやすい穴です。課題も施策も効果も書いてある。それでも三つが同じ方向を向いていません。
たとえば、課題が「若年層の来館動機が弱い」なのに、施策が「既存利用者向けの情報発信回数を増やす」だけなら、若年層が来館動機を持つ仕掛けにはなっていません。情報発信という言葉が入っているため、それらしくつながって見える。共通語があることと、因果があることは別です。
対応ずれを見抜くには、「施策を実施すると、課題として置いた状態が直接動くか」と問い直します。動かないなら、施策か課題のどちらかを替えます。
穴5:途中が飛んでいる
「学生向け演劇ワークショップを実施し、地域文化を継承する」
方向は合っています。しかし、一回の施策から理念級の効果へ一気に飛んでいます。読み手が知りたいのは、その間です。学生が参加する。文化に触れる。再来館や継続参加の動機が生まれる。こうした中間の変化を置けば、どこまでを施策の直接効果として約束するかが見えます。
大きな言葉へ飛ぶほど提案が強くなるわけではありません。飛躍は、むしろ約束を曖昧にします。施策の直後に起こせる変化から、一段ずつ上がってください。
悪い例を、矢印のある文章へ直す
次は教材用に作った架空の短文です。特定案件の実績ではありません。
悪い例
若年層の利用を促進するため、SNSで積極的に情報発信するとともに、学生向け演劇ワークショップを開催します。地域団体とも連携し、地域文化の継承と創造に貢献します。
一見すると、課題・施策・効果が全部入っています。しかし、因果の穴を点検すると四つの問題が見えます。
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| 箇所 | なぜ悪いか | 穴の型 |
|---|---|---|
| 若年層の利用を促進 | 若年層のどんな状態が課題なのか、資料上の根拠がない | 根拠なし |
| SNSで積極的に情報発信 | 発信が来館動機の不足へどう働くかがない | 対応ずれ |
| 地域団体とも連携 | 何を担い、ワークショップにどう効くかがない | 効果なし |
| 地域文化の継承と創造に貢献 | 一つの企画から大きな理念へ飛び、中間変化がない | 飛躍 |
直す前に、一行へ分解する
文章を直接いじる前に、因果だけを抜きます。
読み取り方は、効果をいきなり理念へつながないことです。施策の直後に起きる変化を一段置くと、課題と施策の対応を検算できます。
直した例
若年層来館率の低迷という課題に対し、若年層が来館動機を持つ企画として、学生向け演劇ワークショップを実施します。地域団体には企画周知と参加者との接点づくりを担ってもらい、若年層が施設で地域文化に触れる機会をつくります。
直した例では、SNSをいったん外しました。SNSが悪いからではありません。素材の範囲だけでは、「発信不足」が課題なのか、「発信すれば来館動機が生まれる」のかを支える根拠が無いからです。書きたい施策を守るために論理を曲げるのではなく、根拠がない施策をいったん外す。この判断がロジックです。
また、「地域文化の継承と創造に貢献する」という大きな効果を、「地域文化に触れる機会をつくる」へ戻しました。約束を弱めたのではありません。施策の直後に起こせる変化へ、約束の大きさを合わせています。
逆向きに読めるかを試す
修正後は、効果から逆向きに読みます。
逆向きに答えが返れば、矢印はつながっています。途中で「それはなぜ?」に答えられなくなった場所が、次に直す穴です。
ロジックツリーは文章を書く前より、選択を疑うために使う
ロジックツリーは、物事を階層構造に分解して整理する枠組みです。原因を掘るWhyツリーと、目的から手段を分けるHowツリーがあります。
| ツリー | 起点 | 問い | この章での役割 |
|---|---|---|---|
| Whyツリー | 課題 | なぜ、その状態が起きているのか | 施策が働きかける相手を見誤らない |
| Howツリー | 目的 | どうすれば、その状態を変えられるのか | 施策候補を目的から外さない |
要求水準や課題をWhyで分け、施策候補をHowで分けると、論理の迷子を防げます。ただし、枝を増やすこと自体が目的ではありません。資料にない原因を推測で増やせば、精密そうに見える思い込みが完成します。
枝の数より、根拠の有無を見ます。「判断できない」を残せるツリーのほうが、推測で埋めた美しいツリーより強い。何が分からないかまで正確に示すことも、ロジックの一部です。
MECE、つまり重複なく漏れなく分ける観点も役立ちます。ただし、提案書の評価は枝を完璧に分類したことでは決まりません。課題に対応する施策が選ばれ、効果まで説明されていることが先です。分類の美しさに時間を使い、肝心の矢印が空白になるのは本末転倒です。
3行まとめ
施策の数ではなく、「課題→施策→効果」の矢印が提案の説得力を決めます。
課題なし・効果なし・根拠なし・対応ずれ・飛躍の五つに分ければ、直す場所を感覚ではなく指差せます。
AIには新しい提案を書かせず、自分の原稿から因果を抜き出させ、空欄と飛躍を点検させます。
ロジックは、文章を冷たくする技術ではありません。現場で実現したいことを、誤解なく、過不足なく、読み手へ渡すための骨格です。
自分の原稿を一施策ずつ見てください。施策名の横に課題と効果と根拠が並び、逆向きにも戻れたとき、その施策は「良さそうなアイデア」から「理由を説明できる提案」へ変わります。
本章の例は、因果の点検方法を示すための教材用サンプルです。自案件へ適用するときは、公募資料に書かれた内容と自社で確認できる根拠を使用してください。